うつ病発症のメカニズム

うつって何だ

うつ病になるメカニズムを理解して、回復につなげましょう

うつ病はどうして発症してしまうのでしょうか。「心の病」などという言葉が世の中にあふれてしまい、「心」、「メンタル」が普通でなくなったかのように捉えられてると思います。

しかし、ストレスが引き金になって、扁桃体の興奮や脳内の神経伝達が悪くなって全身に症状が出ると考えられています。その発症メカニズムについて記載しています。なぜうつ病になるのか、これを知ることで回復へのアプローチも立てやすくなると思います。

この記事では、この発症のメカニズムについて次の3つに大別して説明します。

  • ストレスへの反応
  • 扁桃体の興奮
  • 脳内の視神経仕組み

ストレスへの反応

まず、うつ病の発症には、ストレスが大きく関係していると言われています。

「心の病」、「心の風邪」という言葉が一般的に広まってしまい、「心が弱い人だからストレスに弱く、うつ病を発症するのではないか」と考える人がいるかもしれませんが、ストレスとはそもそも「心や体にかかる刺激や負荷」を指します。つまり、人によっては思いもよらない出来事がストレスになるのです。人間だれしもストレスは日常生活の中で受けていますし、良いストレスもあれば、悪いストレスもあります。

親しい関係となる方の死別や離婚、あるいは病気になる、などといった悲しい、つらい出来事がストレスとなるのは理解しやすいと思われます(少し前にネプチューンの名倉さんが手術の侵襲からなったことで話題になりました)。しかし、それ以外にも昇進や結婚、こどもの独立など、どちらかというと明るい人生の転機でさえストレスとなることがあるのです。私自身、仕事で管理職に昇進して頑張る気持ちが裏目に出て身体を壊した経験があります。

勤労者ストレス調査

ストレスの度合いを測るライフイベント法というものがあります。この代表的なものとして、『ホームズとレイのストレス度表 社会的再適応評価尺度 Social Readjustment Rating Scale:S.R.R.S.)』というのがあります。その後日本でも多くの追跡研究がなされており、夏目誠氏ら(大阪府立こころの健康総合センター部長など)が「勤労者のストレス度を知り、ストレスの気づきへの援助に活用するため」に、ホームズらのS.R.R.S.に準拠しながらライフイベントの内容を日本的に改変しています。

新たに職場生活に関する項目を追加した『勤労者ストレス調査表(65項目)(以下表)』があります。少し古い調査ですが、調査対象は1630名(うち女性 308名)の勤労者で、個人が感じるストレスの程度を結婚=50とし、0-100 の間で自己評価により点数化したものです。

「転職・会社を変わる(64)」「多忙による心身の過労(62)」「仕事上のミスと転職(61)」など、自分の会社や置かれた状況などが大きく転換する際に、誰しも、少なくないストレスを感じることがわかります。特に、失職や転職、過労などの長時間労働時にそれが顕著です。

特に注目したいのは『複数の要素が関係するストレスの大きさ』です。たとえば「転職(会社を変わる)」と「多忙(多忙による心身の過労)」を見てみたいと思います。

転職後、新しい仕事を覚えるために多忙になることはよくあることですが、この2項目の数値の合計は64+62=126となります。この数値は「親族の死(73)」を大幅に超えるストレス数値になっています。複数のネガティブ要因が絡み合うことがストレスの度合いを高めていることは、往々にしてあるのです。

他にも、ライフスタイルと仕事が相互に関係するストレスも見逃せません。「仕事を解雇されて失業し(8位、47点)家計が苦しくなった(16位、38点)」。「住宅ローンを返却できず家を手放し(21位、30点)、引っ越しをした(32位、20点)」。その後「新しい仕事を見つけて職についた(18位、36点)労働条件も変わった(31位、20点)」というように、人が人生を歩む上では、さまざまなケースが想定されます。

勤労者ストレス点数ランキング:出展
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100030182.pdf

扁桃体の興奮

次にストレスがどのように身体に影響を与えていくのか見ていきましょう。まず、扁桃体(へんとうたい)という器官に着目します。

扁桃体とは

扁桃体 は脳の奥深くにあり、情動反応の発生装置ともいわれ、ここで好き嫌いなどが判断されています。扁桃体は、神経細胞の集まりで情動反応の処理と短期的記憶において主要な役割を持ち、情動・感情の処理(好悪、快不快を起こす)、直観力、恐怖、記憶形成、痛み、ストレス反応、特に不安や緊張、恐怖反応において重要な役割も担っています。

脳科学や遺伝学などの発達で、うつ病発症のメカニズムについて解明されつつあります。

少し前の番組ですが、2016年6月18日と19日に、NHKは2夜連続でNHKスペシャル「シリーズ キラーストレス」を放送しました。キラーストレスとは、ヒトの体の中でストレス反応の暴走を引き起こし、人を死にも追い込むストレスのこと。この番組では「ストレスを感じると最初に反応するのは、脳内の扁桃体です」と解説しています。また、番組内で熊野宏昭・早稲田大学教授は「うつは扁桃体で作られる」と発言していました。

ここから少し話が変わりますが、人間の仕組みとして、神経が過敏な状態になったとき、体の中で何が起きているのでしょうか。

まずストレスを感じたときに最初に生じるのは、視床下部 > 下垂体 > 副腎皮質系とつながる一連の反応になります。視床下部、副腎皮質からホルモンが放出されます。少し話がそれますが、たとえばステロイドの軟なん膏こうを塗ると炎症が治まり、傷があっという間に治るようなのはこの一連の反応のものとなります。

そして、視床下部の反応に伴って同時に起きるのが、交感神経の興奮になります。
交感神経は、本来動物として備わっている、Fight or Flight (戦うか、逃げるか)という生命を守るための防御反応に関連し、ひいてはこれに基づいています。交換神経が興奮した状態では脳や筋肉に十分な血液と酸素を一挙に送り出す必要があるために、心拍数は急上昇します。生命としての防御反応として、敵との格闘や全力疾走に備えて筋肉は緊張し、収縮します。また、事態を見極めるため、瞳孔は開きます。

こうした反応は動物として本来備わってきた、外界の脅威に対するため、生き延びるために必要なことです。人間も例外なく動物なのでこの反応が当然のことながら存在します。

ところが、この状態が長く続くと、今度はマイナスの影響が出始めます。必要もないのに緊張が続いたり、副腎皮質ホルモンの影響で、高血圧や胃潰瘍、糖尿病などにかかりやすくなります。

しかし、こうした反応だけであれば、一時的に(もしくはある程度長い期間かもしれません)体調や気分は悪くなるかもしれませんが、うつ病・メンタル不調といった精神疾患に見られるような恐怖症になったり、パニックを起こしたりすることにはなりません。この過敏な状態を、さらに別次元の状態にまで変えてしまう仕組みが存在するのです。

別次元の過敏性、ぷつんと崩れ落ちる瞬間

そうした別次元の過敏性は、同じ刺激を繰り返し受けたり、ある限界を超えるような強い刺激を受けたときに、獲得されてしまいます。私は、これをうつ病発症の事象と捉えています。何かのきっかけで、「ぷつん」と崩れ落ちてしまうその一点の事象です。

たとえば、静電気恐怖症の人がいますが、最初からそんなに苦手だったわけではありません。しかし、何度かパチンと強烈な電気ショックを経験しているうちに、静電気に対して敏感な状態が出来上がってしまうのです。ときには、一回の体験だけでも、それがあまりにも苦痛や恐怖を伴っていると、ハイレベルな過敏性が獲得されてしまうことがあります。

自分の経験では、仕事からくる過労でうつ病を発症しました。深夜勤務がずっと続いていて、しばらくぎりぎりのところで踏ん張っていました (交感神経が過敏な状態) 。しかし、様々な問題が発生して管理者としてチームを引っ張っていくことができない状況に悪化し、リーダー交代の旨を上位者から告げられました。頑張っていた気持ちが一気に崩壊してうつ病を発症してしまいました(別次元の過敏性)。その時の様子はこちらです。

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過敏性の獲得は、人間だからこそできる脳の学習の結果であり、それが警戒すべき脅威だと脳が「学習」してしまったのです。そこには、学習にまつわる脳内神経の回路がかかわっていると考えられます。次にここで重要な役割を果たすのが、NMDA受容体といわれるものです。NMDA受容体は、弱い刺激では働かないのですが、一度スイッチが入ってしまうとしばらく興奮が続くという性質をもっています。強い刺激や、多少弱い刺激でも繰り返し加わると、このスイッチが入ってしまうのです。NMDA受容体は、脳内のいろいろな部位にあって、学習といった可塑的な変化に関わっています。

ネガティブな感情の刷り込み

ここで扁桃体の話に戻ります。怖い体験や不快な体験が、身体的な悪影響を及ぼす体験につながってしまう上で欠かせない役割を担っているのが、扁桃体という器官です。扁桃体は、恐怖といったネガティブな感情の中枢です。不快な体験をした記憶は、この扁桃体に刻み込まれます。その場合にも、NMDA受容体のスイッチが入り、長期間続く興奮(長期増強と呼ばれます)が引き起こされることにより、過敏で傷つきやすい状態が生み出されると考えられます。これがうつ病の時にストレスに弱い状態、再発の引き金だという風に私は考えます。

もちろん脳には、興奮を抑え、馴れを引き起こす仕組みもあるのですが、興奮を冷ます仕組みがもともと弱い場合や、あまりにも刺激が強すぎる場合には、過敏状態のスイッチが入ってしまうと考えられます。

いったん過敏性のスイッチが入ると、通常は馴れが生じて反応閾値が上がっていくところが、逆に閾値が低くなってしまうのです。その結果、他の人にはまったく気にならない音や匂いさえも、耐え難いほど不快に思え、恐怖にさえ感じられてしまうのです。

過敏な人では心の傷ができやすく、心の傷を抱えると、さらに過敏になるという悪循環は、こうして生まれと考えられます。過敏な傾向と心の傷が強い相関をみせるのも、こうした仕組みを映し出していると言えるでしょう。

私の体験談を交えますと、長らく苦しんできたのが社内の評価でした。身体を壊してがっつりと仕事ができなくなって、勤怠も不安定でパフォーマンスが安定しない。そんな中で仕事を続けても低評価の連続となります。評価で欠点やできなかったことを幾度となく指摘されるとひどく気分が憂鬱になりました。 人前で話すことができなくなった、仕事が以前のようにできなくなったという経験をし、仕事場で涙を流したこともありました。しばらく寛解状態で仕事ができていた時期もあったのですが、評価上の上位者からの何気ないコメント(しかし私にはそれがひどくショックとなる一言)で、一気に再発してかなり厳しいうつ状態に転落したことがあります。

また、扁桃体は記憶固定 (memory consolidation) の調節にも関わっていて、学習した出来事の後に、その出来事の長期記憶が即座に形成されるわけではなく、むしろその出来事に関する情報は、記憶固定と呼ばれる処理によって長期的な貯蔵場所にゆっくりと同化され、半永久的な状態へと変化し、その状態が生涯に渡って保たれます。嫌な気持ち、ネガティブな感情、負け癖といったうつ病などの辛い感情はこうして形成されるものだと思われます。

脳内の神経伝達の仕組み

次に、脳内の構造、神経伝達の仕組みから見ていきます。

神経細胞の構造

私たちは日常から発生する様々な出来事を通じて喜怒哀楽の感情を表現し、色々なろなことを考え、これを自分の意思として行動に移しています。こうした感情さらには意欲というようなものは、単に「心」があるから生まれるということではないのです。脳の機能として役割分担があり、きちんとコントロールされていることが、脳科学の進歩によってわかってきています。

脳内では、神経細胞同士の情報伝達を通じて、心(意思や感情)や体(行動や運動)の機能を司る神経細胞に情報伝達する仕組みをもっています。神経細胞同士で様々な情報を電気信号でやりとりしています。

神経細胞が網のように広がるわけは?
一見、神経細胞は脳内に網のように張り巡らされているように見えますが、実は1本1本独立していて、隣の神経細胞との間には空間があります。神経細胞を詳細に見ると、樹の枝のように伸びた突起があり、そこに無数の隆起があって、神経細胞同士をつなぐシナプスというつなぎ目があります。

意思や感情というものが脳の中でどのように伝わっていくか、ということなのですが、シナプスの間の隙間では、電気信号で送られてきた情報の量に応じて神経伝達物質がこの隙間に送り出され、次の神経の受け取る側に渡されることで、情報が伝わっていきます。このとき電気信号が神経伝達物質に変わることで、情報の信号を強めたり、さらに情報が細かく分かれて伝わるはたらきが生じるのです。

うつ病のときには、この神経伝達物質に異変が起きていると考えられています。

神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン)の関わり

次に神経伝達物質にはどんな種類があるのか、ということですが、現在、神経伝達物質は100種類以上も存在するといわれていて、そのうち約60種類が発見されています。このなかでも、うつ病の治療ではセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンという3種類が重要視されています。

これらの神経伝達物質がバランスよくはたらくことにより、脳の機能は健全に保たれるのですが、うつ病では過剰なストレスや過労などが引き金となって、これらの物質が減少し、喜怒哀楽のコントロールができなくなってしまうと考えられています。

神経伝達物質には、情報を受け取る側の受容体にはたらきかけて神経細胞を興奮させるタイプと、抑制させるタイプがあります。うつ病の治療で重視される神経伝達物質のうち、セロトニンは抑制型の神経伝達物質で、ノルアドレナリン、ドパミンは興奮型の神経伝達物質です。 以下の表にまとめてみました。

セロトニン
精神を安定させるはたらきのある神経伝達物質です。脳内の視床下部や大脳基底核・延髄の縫線核などに多く分布しています。
普段は、同じモノアミン類のドーパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)の情報を適度に抑えていますが、セロトニンが低下すると攻撃的になったり、不安やうつ、パニック発作などを引き起こしたりするといわれています。
ドーパミン喜びや快楽などを感じさせる神経伝達物質です。
脳内の報酬系という神経系に深く関わっています。例えば、お酒を飲むことによって快く感じるのは、ドーパミンが放出されて報酬系が活性化するためです。何らかの物質などの依存症になるのは、それが本人にとってドーパミンを活発化させるものだからと考えられます。
ノルアドレナリン恐怖や驚き、興奮などを感じさせる神経伝達物質です。精神的・身体的ストレスを感じた時に放出され、交感神経を活性化させます。交感神経は体を活動的にする神経で、血圧や脈拍を上昇させます。そのため、ノルアドレナリンのはたらきのバランスが崩れると、神経症やパニック障害・うつ病などを引き起こすと考えられています。

抗うつ薬については、この伝達物質の働きに着目して開発されています。

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